おんざまゆげ

@スラッカーの思想

労働

排除と搾取のメカニズム──資本主義から自由になるための条件

資本主義は概ね(1)「賃労働で所得を獲得できないと生活できない」という世界をつくったうえで、 (2)「賃労働者から搾取する」ことによって成り立っている。マルクスは搾取される賃労働者の階級を革命主体と捉えたが、逆に「働かない者たち」(ルンペン・プロ…

「小人閑居して不善をなす」──人間の自由と悪への傾き

「とうとう我らの時代がきた!」 そう歓喜したのはわたしが中学二年の夏休み、三年生が部活の大会に破れたときのことだった。しかし、顧問の先生は言った。「お前ら三年に自由な夏休みを与えてしまうと何をしでかすかわからない。だから秋の大会にエントリー…

怠惰と堕落のちがい——「怠惰の倫理」は堕落主義を拒絶する

このへんではっきりさせておきたいから書く。わたしは堕落主義者に与したくない。怠惰は推奨するが堕落は拒絶する。 堕落とは自分の利益や幸福のことしか考えない非政治的でシニカルな心の習慣である。一方、怠惰(スラッカー)とは堕落傾向を阻止するために勤…

自分を大切にしてくれない場所からはさっさと逃げよう

『あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない』。そしてそれが『人が生きる上で、一番くらいに大切なことだと思う』 「あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない」というメッセージ。の巻(雨宮処凛) 日本の「勤労」という概念をそれなりに調…

勤労主義は平和主義と両立しない—戦争・福祉国家・優生思想—

社会権は自由権に優先する わたしは「すべては生存権保障からはじまる」と思っている。これを一口でいうなら〈近代的な立憲民主主義の自由主義思想において、人権保障の大前提は(個人の幸福追求権を含めた)市民的自由権よりも、生存権を含めた社会権のほうを…

スラッカー(怠惰主義)とは「労働の脱道徳化」である

個人や社会のあらゆる悲惨さは、労働への情熱から生まれる(ラファルグ) なぜ、かくも労働は道徳と結びつき「勤労」(労働への情熱!)となったのか。この二つの結合こそが私たちの労働にまつわる生きづらさの正体である。 「スラッカー」(怠惰主義)は、労働…

「スラッカー」概念についての素描

ニート≒スラッカー スラッカー(slacker)という概念は日本ではほとんど定着していない言葉だ。スラッカーは「怠け者」「怠惰なひと」「何もしてないひと」「義務や責任を回避しているひと」「徴兵回避者」「働かないひと」「勤労意欲に乏しいひと」...等々の…

「日常生活に潜むリバタリアニズム」— 再分配政策(生存権保障)の正当性・社会保障のあり方・分配的正義論(引用メモ)

「日常生活に潜むリバタリアニズム」(=「わたしが働いて得たお金はすべてわたしのものだ」というロジック)を批判する主張(引用メモ)を紹介する。批判対象は主にロック的所有権論=ノージック的リバタリアニズムである。具体的には、租税の正義論・分配的…

生き延びるための読書計画 2019 — 労働・貧困・セクシュアリティ

「計画」と言っても適当です... 「生きづらさ」低減に向けた「生き延びるための読書」計画を立てました。計画といってもざっくりした大枠ですので、計画から逸れて他の分野に飛ぶかもしれません。 あと、一年間でやれるかどうかは私の精神的な気分・体調と自…

ブラック部活批判の矛盾した論理——真由子先生の部活批判について/「内藤朝雄」論(3)

私は社会学者の内藤朝雄さん(以下敬称略)の『いじめの社会理論』『いじめの構造』を読んで以来、熱烈な支持者(内藤論者)になった。 前々回は内藤の「中間集団全体主義」について簡単に触れ、前回は「なぜ内藤は教育関係者からスルーされるのか」について…

みんなが「松岡修造のような人(MSH)」になんてなれない!/ブラック企業・部活動・就活と「人間力=MSH規格」の関係

〈 日本社会を生きづらくするMSH規格 〉 教育社会学者の本田由紀さんが提唱したハイパー・メリトクラシー(=人間力)を最も体現している人物モデルは「松岡修造のような人(MSH)」であると思う。 学校共同体はMSHをつくりだそうとしており、会社共同体はMSH…

「すべての生が無条件に承認される社会」へ向けて——「生きづらさ」についての雑記(3)

今回は「生きづらさ」と「承認」の問題を考えてみようと思います。 前半では「承認と生きづらさの関係」「承認と自尊の関係」を考えます。 後半では「ただ生きているだけで生が否定されてしまう社会構造」を批判的に問題にし、それにかわる「すべての生が無…

阿部 彩『弱者の居場所がない社会——貧困・格差と社会的包摂』/すべての人が包摂される「ユニバーサル・デザイン社会」

「社会的包摂」政策にかんする入門書 「社会的包摂」とは、(1)社会にビルトインされた「社会的排除」のメカニズムを明らかにし、(2)社会的排除のメカニズムを停止・失効させたうえで、(3)誰もが社会の中に包みこまれながら無理なく生きられる社会を…

本田由紀『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』/「社会は、変えられる」

あらゆる媒体に寄稿された文章をまとめたもの。 その中身は教育社会学者らしいデータ重視の固めの論文から軽いタッチでドラえもん批判を展開するエッセー風のものまで幅広いスタイルで書かれている。 そのほかに阿部真大さん(『搾取される若者たち―バイク便…

本田由紀『若者の労働と生活世界——彼らはどんな現実を生きているか』/若者が直面するツライ現実

本田由紀さん編集の論文集。 編集構成は、前半では若者を取り巻く社会環境の変化についての総論的な分析がなされ、それをうけて後半では「若者と労働」、「若者の生活世界」という二つの各論分析がなされている。 … 若者が抱える苦しみや豊かさが、“われわれ…

見田宗介『現代社会はどこに向かうか《生きるリアリティの崩壊と再生》/「まなざしの不在」の地獄

社会学者 見田宗介先生の講演集。 超薄い本なのですぐに読める。 現代社会はどこに向かうか《生きるリアリティの崩壊と再生》(FUKUOKA U ブックレット1) (FUKUOKA Uブックレット) 作者: 見田宗介 出版社/メーカー: 弦書房 発売日: 2012/07/17 メディア: 単行…

湯浅誠『「生きづらさ」の臨界―“溜め”のある社会へ』/「生きづらさ」は社会的・構造的問題

「生きづらさ」に関する鼎談本 現場で活動している湯浅誠さんと河添誠さんが、学者や専門家の方々をゲストに迎えて現代日本の「生きづらさ」について議論している鼎談本。 「生きづらさ」の臨界―“溜め”のある社会へ 作者: 本田由紀,後藤道夫,中西新太郎,湯浅…

湯浅誠『どんとこい、貧困』/「溜め」のある社会へ

社会に「溜め」をつくるには… この本の前半部分は、貧困に対する自己責任論への反論が分かりやすく論じられている。 後半部分は、“溜め”のある社会へと移行するにはどうすればいいか、そのために活動する「活動家」(市民)とはいったいどんなものなのか、と…

「成功者たちにつけるクスリ」(ハーバート・サイモン 他)

… 自身の成功体験からほかの人々の人生を断罪するような物言いをしそうになってしまう、そんなこともあるいはあるかもしれない。もしそんなことがあれば、一息ついて思い出してほしい言葉がある。[ … ] 自己責任論に陥りそうになったら、このクスリを飲んで…

雨宮処凛『生きさせる思想―記憶の解析、生存の肯定』/単なる「労働運動」から「労働/生存運動」(生きさせる思想)へ

「生きさせる思想」とは… 雨宮処凛さんと小森陽一さんとの対談本。 前半は雨宮さんの個人史がテーマになっています(記憶の解析→雨宮さんを苦しめていた「生きづらさ」はいったい何に由来するものだったのか。 ) 自分自身を責めつづける方向(リストカット…

赤木智弘『若者を見殺しにする国』/「人が死ななくても変われる社会」はいつ来るのか

「論座」(2007年1月号)に寄稿した論文「『丸山眞男』をひっぱたきたい~31歳フリーター。希望は、戦争。」収録の文庫版。 若者を見殺しにする国 作者: 赤木智弘 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2013/09/11 メディア: Kindle版 この商品を含むブロ…

『生を肯定する倫理へ―障害学の視点から』/「生を無条件に肯定する」思想

障害学の視点から英米圏の倫理学説(ロールズ「正義論」やシンガー「選好功利主義」など)を批判的に検討し、立岩真也や森岡正博、レヴィナスやデリダの「他者」概念などを導入しながら「生を無条件に肯定する倫理」を構想する書。 生を肯定する倫理へ―障害…

「生きづらさ」低減に向けた「生存学」のアプローチ —「生きづらさ」についての雑記(1)

「生きづらさ」はゼロにはならない 私がブログで本当に考えたいテーマは「生きづらさの低減」についてです。ずっと念頭にあるのが「どうやったら生きづらさを生きづらさとして受け容れられるのか」という難問です。 生きづらさは決してゼロにはならないと思…

『男と女の友人主義宣言―恋愛・家族至上主義を超えて』/労働・恋愛結婚・モテ幻想から「男を救う」ために

著者の佐藤和夫さんは哲学やジェンダー論が専門の学者で、有名な著作に『仕事のくだらなさとの戦い』がある。これは「労働至上主義」を批判した本であるが、今回の本では「恋愛・家族至上主義」を批判している。 資本主義社会を支えている二つの至上主義(労…

山田ズーニー『「働きたくない」というあなたへ』/就活生に向けたエール!

「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載「おとなの小論文教室。」を書籍化したもの。 主に読者とのメールのやりとりで構成されており、大学の就活セミナー講師で経験したエピソードをまじえながら、「働くことの意味」について読者と一緒に考えていくスタイル。 「働…

『嫌われものほど美しい―ゴキブリから寄生虫まで』/怠惰は「自然」であり勤勉は「不自然」である

擬人主義的動物観 ピュリッツァー賞を受賞しているサイエンスライターと『FBI心理分析官』を訳している訳者。面白い本です。 著者のスタンスは、タイトルから想像できますが、「擬人主義」という立場。 …それはあらゆる生きものに対する共感、あるいは連帯感…

田中ひろみ『わたしがナースを辞めたわけ』/「白衣の天使」は天使じゃない!

「看護婦になって手に職を付けよう」そう簡単に考えた著者は、大阪の看護学校から東京の病院に就職した。そして希望の消化器内科に配属になったが…。 当時その消化器内科は、「魔の病棟」と恐れられていたところだった。そこで彼女を待ち受けていたものは? …

平野啓一郎『空白を満たしなさい』/「分人」という生き方

ある日、勤務先の会社の会議室で目覚めた土屋徹生は、自分が3年前に死亡したことを知らされる。死因は「自殺」。しかし、愛する妻と幼い息子に恵まれ、新商品の開発に情熱を注いでいた当時の自分に自殺する理由など考えられない。 じつは自分は殺されたので…

『所有という神話―市場経済の倫理学』(大庭健 著)

所有という神話―市場経済の倫理学 作者: 大庭健 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2004/07/27 メディア: 単行本 クリック: 6回 この商品を含むブログ (17件) を見る 「市場経済」を倫理学的に考察した書。

「役立たない人は死んでいい」(相模原障害者殺傷事件)

今回の事件(相模原障害者殺傷事件)に対して肯定的な感想をよせている「差別主義者」の反応は間違っていると思いました。「役に立たない人は存在しなくていい(殺害していい)」という優生思想は歴史的に否定された倫理的に間違った考え方です。どんなこと…