お願いだから私を壊して、
帰れないところまで連れていって見捨てて、
あなたにはそうする義務がある…
大学二年の春、母校の演劇部顧問で、思いを寄せていた葉山先生から電話がかかってきた。泉はときめきと同時に、卒業前のある出来事を思い出す。
後輩たちの舞台に客演を頼まれた彼女は、先生への思いを再認識する。
そして彼の中にも、消せない炎がまぎれもなくあることを知った泉は…。
島本理生さんのベストセラー小説(23万部以上)。
2005年の山本周五郎賞 候補作、
2006年版「この恋愛小説がすごい 第1位」に輝いた。(島本理生 - Wikipedia)
2017年秋に映画化決定!みたいです→(映画「ナラタージュ」公式サイト)
(以下、ネタバレ)
まぎれもない純愛・青春ラブストーリー
一口で言えば「超純愛ラブストーリー」。*1
恋愛形式としては、男性の高校教師と女子高生との組み合わせです。
主人公の工藤泉(女子高生)は、赴任してきた教師の葉山先生と出会います。
高校時代は「この先生、ちょっといいかも!」レベルに留まっており、ほぼ「片想い」で終わっています。(卒業式のときにちょっとした「事件」はありますが…)
二人がお互いを本格的に意識しだすのは、泉が大学2年生のときからです。
だから、野島伸司さん脚本の『高校教師』のような「教師と生徒の禁断の恋愛」ではなく、正確に言えば、「教師と元教え子(女子大生)との純愛」です。 *2
「純愛プラトニック」の均衡崩壊… そして爆発的「エロス」へ
『高校教師』と比べると、『ナラタージュ』の性愛度・衝撃度は圧倒的に低いのですが、その分、圧倒的に純愛でプラトニックな関係を描いています。
実を言うと、泉と葉山先生との関係は、世間一般で言われるような恋愛関係なのかどうかも疑わしいぐらいの純愛プラトニック路線を物語の最終盤まで維持し続けます。
そしてこの小説の目玉は、二人の純愛プラトニック関係の均衡が崩れそうで崩れない…という微妙なラインを物語の最後の方まで維持しつつ、読者を焦らしまくって引っ張りまくって、最後の最後でその均衡を一気に爆発崩壊させるところにあります。
純愛プラトニック関係の均衡によって抑えつけられていた二人の欲動は、その均衡崩壊とともに一気に解き放たれ、爆発し、純愛プラトニックは逆説的フィジカル・エロスの極致へと至り極点、一転、最終形態タナトスへと尽き果てるのでした。
事後、二人は以下のような会話を交わします。
「これしかなかったのか、僕が君にあげられるものは。ほかになにもないのか」
必死で模索するように私の目を覗き込んだ。そんなところを探してもなにも見つからないのに、もうずいぶん長いこと、私の目は彼しか映していない。
「あなたはひどい人です」
私は叫んだ。
「これなら二度と立てないぐらい、壊されたほうがマシです。お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある」
「無理だ、僕にはできない」
これはまさに渡辺淳一『失楽園』路線の一歩手前、あるいは「タナトス」方面です。
しかし、二人は「狂気」の一歩手前で踏み留まります。
この小説は、恋愛小説にしてはあからさまな性描写がほとんどなく、そういう意味では全体的にプラトニックなトーンで書かれています。
でも、最終形態タナトスあたりの描写になると、とても官能的になるのです。
露骨な性描写はほとんどないのに、すごくエロティックになります。
純愛プラトニックの恋愛が、まさかあのように変貌するとは…
こういう恋愛小説の展開は初めてだったので、すごく「萌え」ました。
映画には1ミリも期待してませんが、小説は読んでよかったです。