おんざまゆげ

@スラッカーの思想

【映画】『恋愛小説家』/恋愛経験ゼロの「恋愛小説家」が「最貧困シングルマザー」に恋に落ちる!超難度な純愛ラブストーリー

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 第55回ゴールデン・グローブ賞で主要3部門に輝いた、ジャック・ニコルソンヘレン・ハント共演の恋愛ドラマ。偏屈で嫌われ者のベストセラー作家と、バツイチで子持ちのウェイトレスが織りなす不器用な恋を、さりげないユーモアを交えて描く。

 誰かれ構わず悪態をつく、小説家役のニコルソンがハマリ役。甘く切ない女心を描き、書いた本はすべてベストセラーという恋愛小説家メルビン。しかし実際の本人は、異常なまでに潔癖性で神経質の嫌われ者。周囲に毒舌をまき散らし、友人は誰もいない。。そんな彼がある日、ウェイトレスのキャロルに淡い恋心を抱くが・・・。<allcinema

 

 

ジャック・ニコルソン怪演の純愛ラブコメ

 1998年公開。ジャック・ニコルソン主演の恋愛映画です。

 シリアスなラブロマンスというよりも、どちらかというとコメディ色の強いラブコメ風の作品。

 

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タイタニック』とかち合う不運…しかし主演男優&女優賞を獲得!

 この作品でジャック・ニコルソンは二度目のアカデミー主演男優賞を、ヘレン・ハントは主演女優賞を獲得し、みごと主演W受賞を果たしました。

 作品賞もノミネートされていたため『羊たちの沈黙』以来の快挙達成が期待されましたが、98年のアカデミー賞(第70回)は名作揃いであり、なかでも『タイタニック』は作品賞や監督賞をはじめ11部門を総なめにし、運が悪かったと言うべきか、結局、快挙達成には至らず…。

 ちなみにその他のノミネート作品には、マット・デイモン脚本&主演でロビン・ウィリアムズと共演した『グッド・ウィル・ハンティング』、ケビン・スペイシーラッセル・クロウなど豪華キャストの『L.A.コンフィデンシャル』などがありました。

 このような強豪揃いの作品のなかで、主演W受賞はすごい功績なのではないかと思います。

 

電車男』や『101回目~』を凌駕する「メルビン」のキャラ設定

 主人公はベストセラー連発の恋愛小説家メルビンジャック・ニコルソン)。

 原作がないので主人公のはっきりした年齢は分かりませんが、主人公を演じたジャック・ニコルソンは上映当時60歳で撮影当時は59歳。ここからメルビンの年齢を推定するなら、どう若く見積もっても50代後半です。

 そして、メルビンには次のような特徴があります。

 「 潔癖症で毒舌家の嫌われ者の変人」。

 映画を観ればすぐ分かりますが、そのような表現はあまりにも「マイルド」すぎます。メルビンは明らかに何らかの「精神疾患」を患っており、映画では通院している精神科のセラピスト(精神分析医)に難くせを付けるシーンがあったり「強迫神経症」という言葉も登場したりします。

 おそらく、メルビンは単なる「潔癖症で毒舌家」なのではなく、「重度の神経症&パーソナリティ障害」であると推察される人物です。あえて今風の言葉を使うなら、メルビンは間違いなく「コミュ障」の疑いが濃厚であると思われます。

 以上のことから、メルビンは次のような「男」です。

 ・売れっ子恋愛小説家

 ・50代後半(容姿は見ての通り)

 ・独身 アパートで一人暮らし

 ・特徴 潔癖症で毒舌家、嫌われ者の変人(友達は一人もいない)

 (重度の神経症&パーソナリティ障害、俗にいう「コミュ障」の疑い)

 

 本作では、メルビンの生い立ちや過去のストーリーは一切わかりません。従って、なぜ売れっ子恋愛小説家になれたのか、どのような恋愛小説を書いているのか、なぜ重度の神経症を患っているのか……等、すべてが謎です。

 メルビンのような男が「情熱的な恋愛をする!」 (そもそもできるのか?)。

 これは『タイタニック』なんかより製作的にストーリー的に超難度(ハードルが高い)でしょう。

 ちなみに、メルビンが小説を書いているシーンは、前半部分に数カット登場するのみで、この映画でメルビンが小説家らしい姿を見せるところはほとんどありません。おそらく「恋愛小説家」という設定は単なるアイロニーであって、職業は何だって良かったのでしょう。

 

お相手の「キャロル」のキャラ設定

 では、メルビンのお相手のキャロル(ヘレン・ハント)はどのような人物か。

 キャロルは、メルビンがいつもランチを食べている行きつけのレストランでウェイトレスとして働いています。すごくテキパキとしていて、はっきりと物を言うタイプ。容姿端麗で第一印象が「いい感じ」の女性として描かれています。

 メルビンにとっては「お気に入り」の人物であり、注文した料理をキャロル以外のウェイトレスが運んでくると、憤激します(これも神経症の「こだわり行動」の一種か)。

 キャロルはシングルマザーで、持病(喘息発作)で苦しんでいる息子を母と二人で育てています。息子の発作は頻繁に起こるらしく、その都度、夜間病院に通ったりしているので、キャロルにとっては自分のプレイベートな時間がほとんどない状態です。

 キャロルの年齢もメルビン同様、いまいちよくわからないのですが、ヘレン・ハントの上映当時の年齢は34歳。そこから察すると、キャロルの年齢設定はアラサーということになるでしょう。(見る人によってはアラフォーに分類されるかも…)

 

 まとめると、キャロルは次のような女性です。

 ・アラサーでシングルマザー(バツイチ)

 ・性格は明るくて気さく

 ・容姿は絶世の美人というわけではないが、そこそこ美人

 ・ウェイトレスをしている

 ・息子がいる(病弱で看護が必要)

 ・母親も一緒に住んでいる(三人暮らし)

 ・生活が貧しい

 ・「良心」というスペルがわからない(学歴がそれほど高くない)

 

超難度な二人(こじらせ系)の純愛ラブストーリー

 二人の恋の物語をいま風の言葉(やや乱暴な言葉)で要約すると、次のようになります。

「中年童貞」で「コミュ障」で周囲から「変人」扱いされ友達が一人もいない「ぼっち」で引きこもり状態に近い「売れっ子恋愛小説家」の男が、「アラサー」で「シングルマザー」の「貧困女子」に恋に落ちる!

 重度の「こじらせ系」の男女は、はたして結ばれるのか…?

 

恋愛は「男」を変えた!

 見どころは、メルビンがキャロルと出会い、恋に落ち、少しずつ変わっていくところ(成長)です。もちろん、ジャック・ニコルソンヘレン・ハントの演技力が素晴らしいのは言うまでもありません。(ちなみに、ヘレン・ハントはその後、映画『ペイ・フォワード』でも同じような「中年童貞」(ケビン・スペイシー)のお相手をしていました。ここでもヘレン・ハントの演技力はすばらしかった。)

 『恋愛小説家』という作品は、恋愛に対してあきらめの気持ちを持っている人に、もう一度だけ恋愛へと乗り出す勇気を与えてくれるかもしれません。(しかし、現実はそう甘くはありませんが…)

  

大切なのは、未知の領域に「踏み出す一歩」

 この映画がすごいと思う理由は、奇特なキャラ設定で恋愛を描き切った脚本力と、人間は少しずつではあっても良い方向へと変わることができる、という微かな希望を感じさせてくれる点です。*1

 これは恋愛だけに限った話ではないと思います。

 ちょっとしたきっかけさえあれば、年齢や性格や属性に関係なく人間は変わりうる。「未知の領域」へと踏み出すささやかな一歩は、「誰か」との出会いが可能にしてくれるのかもしれません。

 つまり、最終的にメルビンとキャロルの恋がうまくいくか、いかないか、ということはまったくどうでもいいことなのです。メルビンはキャロルと出会うことで確実に何かが「変わった」。これだけですごいことだと思います。達成できなかった夢や希望というのも、同じことではないかと思うのです。

 

 

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*1:この映画では、メルビンとゲイの芸術家とその愛犬との「面白い関係」も描かれています。メルビンはゲイも犬も大嫌いだったのですが、それが次第に変わっていきます。この映画は障害をもった人だけではなくセクシュアル・マイノリティ(LGBT)に関してもちゃんと描かれているところが素晴らしいと思います。