おんざまゆげ

@スラッカーの思想

小椋佳『シクラメンのかほり』について —— 隠された「愛する人への想い」

シクラメンのかほり』とは?...

 1975年4月に布施明さんのシングル曲としてリリースされた名曲。

 作詞・作曲は小椋 佳。編曲は萩田光雄

 

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 歌詞はこちらにあります。

シクラメンのかほり 布施明 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索

 

「小椋 佳」おぐら・けい)って?...

 1944年生まれの大御所シンガーソングライターです。最近では2014年に「生前葬コンサート」をしたことが話題になりました。

公演について|小椋佳「生前葬コンサート」

  小椋佳さんは東大卒業後、日本勧業銀行に勤めながら音楽活動をしていましたが、93年に銀行を退職。それまでサラリーマンと音楽家の「二足のわらじ」をしていたわけですから、すごい経歴の持ち主ですよね。

 名曲は数知れず、特に有名なのは美空ひばり「愛燦燦」、中村雅俊俺たちの旅」、梅沢富美男「夢芝居」、堀内孝雄「愛しき日々」...等々があります。

 1976年10月、NHKホールにて初のコンサートを行いました。兼業の音楽家だったため、なかなか表舞台には登場しない小椋佳さんは当時の音楽雑誌などで「まぼろしのスーパー・スター」と形容されていたようです。満を持して初めて公の場に登場したのがこの初コンサートだったわけですね。

 そのときの貴重な映像と思われるのがこちら。

 

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 どうでしょう?

 小椋佳さんをまったく知らない人がこの映像を観たら、たんなるそのへんにいる典型的なおじさんがただ歌っているだけ、と感じるかもしれません(布施明さんが超イケメンだっただけに...)。まさかこんなサラリーマンのおじさんぽい人が「まぼろしのスーパー・スター」と呼ばれていたなんて......信じられない...と思うかもしれない。しかし、こういうときにこそ声を大にして言いたい。人は見た目じゃないのだ、と!

 小椋佳さんの存在じたいが「人は見た目じゃない」の証左になっているのです。

 

 シクラメンのかほり』に隠された「愛する人への想い」

 私はずっと『シクラメンのかほり』の「かほり」は「香り」だと思っていたのですが、つい最近それが誤解だったことが判明しました。

 シクラメンという花にはほとんど「香り」がないというのです。しかも「かほり」という表記は本来「かをり」と書くのが正しく、「かほり」と表記するのは間違いらしい...。  実は、『シクラメンのかほり』の「かほり」とは、小椋佳さんの初恋の相手で、のちに結婚することになる妻の名前「佳穂里=かほり」を「シクラメン」にたとえてあらわしている歌だったらしいのです。*1

 しかも(事実関係の裏取りはできていませんが)小学校の頃に出会った初恋相手の佳穂里(かほり)さんから一度、別れを告げられており、二人は一旦は別れたらしいのです。そのときの「別れたくない」という小椋佳さんの想いと佳穂里(かほり)さんへの未練の愛情がこの歌を生んだというのです。その後、二人は再会し結婚します。これが本当ならなんとドラマチックな展開でしょう。

 これを知って以来、私はますますこの歌が素晴らしい歌に思えてきました。私はリアルタイムで小椋佳さんを知ったわけではないので(映像はほとんどYouTubeで知った)、正直、小椋佳さんをどこか「たんなるおじさん」のように見ていたのでした。

 だから、もちろん『シクラメンのかほり』はずっと布施明さんのバージョンが好きだったのです。しかし、『シクラメンのかほり』に隠されたエピソードを知ってからは、小椋佳さんが歌う『シクラメンのかほり』がたまらなく好きになりました。逆に、今では布施明さんが歌うバージョンはちょっと情熱的すぎるかなぁと思うようになっています。

 イケメンの布施明さんが歌う情熱的な『シクラメンのかほり』よりも、素朴でサラリーマン風の典型的なおじさんのような風貌で、朴訥と歌っている飾らない小椋佳さんの『シクラメンのかほり』の方が、なぜか感動的なのです。

 

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番外編:「夢芝居」について...

 最近、なにかと話題の梅沢富美男。その最大ヒット曲が小椋佳さん作詞作曲の「夢芝居」(1997年リリース)です。(この歌のイントロは神!ですね。)

 私にとって「歌謡曲」というのは、かつては団塊の世代以上の年上の方々とコミュニケーションをとるさいの「ネタ」、あるいは「ツール」以上のものではなかったのですが、なんとアラサーになってから突如として歌謡曲や演歌が「聴ける曲」になりました。それまで歌謡曲さだまさし!)や演歌吉幾三!)のような曲はまったく聴けない(生理的に耳が受付けない)ありさまでした。父のような年配のおじさんが何度となくカラオケで「夢芝居」を歌っていた頃はどうしようもなく「クサイ曲」だったのですが......。人それぞれの「感受性」というものは摩訶不思議。ある日突然、変容するもののようです。

 

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*1: 「シクラメン」は当初「ブタノマンジュウ(豚の饅頭)」という和名が付けられていたという。この名前が通常化しなくて本当に良かったと思う次第である。