本書は2005年に刊行された「よりみちパン!セ」という有名なシリーズの一冊。
前半は「肉」(豚や牛や鶏の肉)が私たちの食卓にのぼるまでの全過程が説明され、後半は屠畜作業に従事している人たちが差別されてきた歴史(部落差別)が説明される。どちらかというと「食育」の問題よりも後半の差別問題がメインである。(最後の方になると「戦争責任」の問題が取り上げられたりするので、タイトルになっている『いのちの食べ方』というのは、やはり少しミスリードな感じがする。)
著者が言いたいメッセージはとにかく「知ること」は大切だということ。この一点につきる。肉を食べるにしても、その肉がどのような過程を経て自分の口の中に放り込まれるのか。まずは「食べる」以上、知っておく責任があるというのだ。それは「自分の健康のため」というわけではなく、「食べられる“いのち”のため」である。
「食」に関する最大の矛盾は、「いのちを大切にしよう」と言っていながらその一方では動物(あるいは植物)を殺して食べていることである。この矛盾を調停する方法は「“いのち”を犠牲にすることでしか我々は生きられないのだ」と言って「開き直る」ことではないと思う。私たちは常にその矛盾を感じなければならず、何かを「食べる」ということは「“いのち”を犠牲にする」という解けない矛盾を常に突きつけられる営みとして引き受けなければならない。その一環として屠畜解体過程を「知ること」は必要なのである。