1999年製作の中国映画。監督はチャン・イーモウ。一切のプロの俳優を使わず素人だけを起用して製作したユニークな映画である。1999年ベネチア映画祭で金獅子賞を受賞。
【 先生は13歳(少女) 】
辺境の村で学校の先生をしているカオ先生。先生は村でたった一人しかいない。ある日、カオ先生の母が危篤になり、一ヶ月休職することを余儀なくされる。
先生がいなくなってしまったら生徒は困る。そこで、カオ先生の代理として連れてこられたのがなんと13歳の少女ウェイ・ミンジだった。ウェイは、代理先生を務める報酬として村長から50元もらうという約束をしていた。「50元もらえる」という約束のためにわざわざこの村に先生としてやってきたのである。
だが、その約束は疑わしかった。村長はとてもいい加減な人だったからだ。とりあえず生徒の面倒を見てくれる人だったら誰でもいい、というノリで少女(ウェイ)を連れてきてしまったのだ。
カオ先生は仕方なくウェイに代理を頼むことにした。ウェイに与えた指示は次の二つ。(1)教科書を一課ずつ黒板に書き、それを生徒に写させること。 (2)もうすでに十数人の生徒が貧困のために学校を辞めてしまったので、帰ってくるまで一人も生徒を減らしてはいけない、ということ。
そしてウェイは「ウェイ先生」となり、教壇に立つことになる。1~4年生(28人)の教室で村長から生徒に紹介されるウェイ先生。が、悪ガキのホエクーは「そんなの先生じゃねーよ!」と反発。先行きが案じられるのだった。
【 ホエクーを探しに... 】
ある日、そのホエクーが学校に来なくなる。ホエクーの家庭は貧しく、父は亡くなり母は病気で寝込んでいる。しかも借金が何千元もある。ホエクーはしかたなく借金を返すために町へ出稼ぎに行ったのだった。
ウェイはホエクーを連れ戻そうとする。カオ先生との約束のためだ。「もう一人も生徒を減らしてはいけない」。
ウェイはそのことを村長に相談し、「ホエクーを探しに行ってほしい」と頼む。だが、村長は「探しても仕方ない...あの子が働くしかないんだから…」と言う。それに対してウェイは「だったら自分が町へ探しに行くのでバス代を…」と頼む。村長は「金なんてないね!」と突っぱねる。ウェイは「じゃあ先に50元払ってください。そのお金で探しに行くわ!」と言うのだが、村長は「金は後で払う」の一点張り。
そして村長は「幼いお前が町に行くのは心配だ。学校に残された生徒も心配だし...」と言って思いやりをアピールする。が、「だったら村長、帰るまであなたが生徒を見ていて!」とウェイに言われてしまうと、「冗談じゃない。わたしは忙しいのにそんな暇があるか!」と本性を暴露。
「絶対に行くな」「行くわ」「だめだ」「バス代を…」「そんな金はない」......という一連の会話の後、ウェイは自分たちでホエクーを連れ戻そうと決意する。
なんとか町へ辿り着いたウェイだが、そこは村とはまるで違う別世界だった。道行く人に尋ねても誰も相手にしてくれない。ホエクーを探すために、駅の放送、はり紙広告などをやってみるものの、みごとに失敗。
はたしてウェイはホエクーを探しだすことができるのか…。
【 探すことに理由なんていらない 】
なんとシンプルな映画なのだろう。先生になった少女が町へ出稼ぎに行った生徒を探しに行く、というただそれだけの話。たった一人の生徒を探しに行っている間、残された生徒はどうしているのか。たぶん、ほったらかしだろう。「迷える一匹の羊」の話のように、ホエクー以外の生徒はほったらかしなのだ。カオ先生だったらどうしたであろう。わざわざ町まで行ってホエクーを探したであろうか。
ウェイはなぜ、ホエクーを探しにいったのか。当初は「カオ先生との約束」(生徒を一人も減らしてはならない)という理由からだったのだが、のちにウェイは「ホエクーが心配だから」と答えた。「私の生徒だから」とか「学校のため」とか「村の教育のため」などとは答えない。たんに「心配だから」というシンプルな衝動からである。 ここには「先生」と「生徒」という役割関係を超えた関係性がある。
どこかの村から連れてこられて代理を任されているだけの少女(13歳)なのだから、そこには明確な責任や義務はなく、ただ任されただけであり、嫌だったらすぐに辞めることができるし、面倒臭ければ、ばっくれればいいだけである。
ウェイはホエクーを探すために一文無しになっている。お金のために(50元もらうために)探そうとするのだとしたら、とっくに割が合わなくなっている。なのに必死に探している。使命感や責任感はあったのかもしれないが、それよりももっと強いものがなければ説明がつかない。それはいったい何なのだろう。
ウェイは真に「ホエクーが心配だから」探しに行った。ただ単純にかけがえのないホエクーが心配だから探しに行ったのだと思う。 我が子を愛することに理由などいらないのと同じように...。