おんざまゆげ

@スラッカーの思想

差別

公助が必要な理由——『イラクの子 ふたりのアリの悲劇』からわかった支援格差の現実と「日本社会の劣等性」——

イラク戦争の最中、米軍の爆撃により運命を変えられたふたりの子ども。偶然にもアリという同じ名前を持ち、同じ病院で治療を受けたふたりの子どもの惨劇を通して、イラク戦争が罪のない一般のイラク人にもたらした辛い現実を描いたドキュメンタリー。 バグダ…

エイジズム—若さを求めて老いを忌避する心性—

社会学者の上野千鶴子さんは下記のボーヴォワール『老い』を解説している本のなかで「老いる姿を隠すべきではない」と言っている。すごく重要な指摘だとおもう。 ボーヴォワール『老い』 2021年7月 (NHK100分de名著) 作者:上野 千鶴子 NHK出版 Amazon 社会の…

生存は抵抗である—「無能な存在者」が無能なまま生き延びるための二段階戦略—

われわれは国にたいして生存権保障を要求する 以下の記事では「戦争=国民国家」と「優生思想=福祉国家」の関係性について述べた。 tunenao.hatenablog.com 国家にたいして生存権保障を要求する場合、つぎのような懸念がある。 優生思想や能力主義の差別性を…

勤労主義は平和主義と両立しない—戦争・福祉国家・優生思想—

社会権は自由権に優先する わたしは「すべては生存権保障からはじまる」と思っている。これを一口でいうなら〈近代的な立憲民主主義の自由主義思想において、人権保障の大前提は(個人の幸福追求権を含めた)市民的自由権よりも、生存権を含めた社会権のほうを…

「非対称な関係の対等な関係」は可能か—『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』が示唆する難問について—

インターエイブル(interabled couple)を描いたドラマ 昨年、韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(Netflix)がヒットした。 世界では非英語部門のTV番組で配信開始から6週連続でTOP10入り、そのうち2位になったのは一度きりでTOP1に君臨し続けている。(シ…

「かつら」をファッションに!——男性学的「かつら」論

「かつら」はファッションである ぼくはファッションにはあまり興味がないが、「かつら」(あるいはウィッグ)には興味がある。 「かつら」はファッションとして使用されるときは「つけ毛」「ウィッグ」とよばれ、「薄毛」を隠す目的で使用される場合にかぎ…

トランス差別と「性という存在形式」—— サンディ・ストーンの“ポスト・トランスセクシュアル宣言”について

私たちは「見た目」で性別判断してしまう“クセ”がある トランスジェンダーを差別することは、容姿や見た目による差別と通底している。これは、年齢差別、女性差別、人種差別、障害者差別、ハンセン病差別などにも見いだせる。「見た目」から判断して分かるよ…

「二重の排除」と「マイノリティ」—— 変革者としてのクィア的存在

「意味/無意味」が成り立つためにはホモ・サケル的な第三項排除としての「非意味」が必要になる。同じように、「優者/劣者」という価値序列が成り立つためには、価値評価の対象外(優者にも劣者にもなりえないもの)が必要になる。 「優/劣」のような社会的評…

他者を「尊重」すること —— 「尊重」という態度は歴史的に“発明”されたもの

・「尊重」とは「否定しない」こと 私の理解では、「尊重」(=respect)というのは、「個人の尊厳を尊重する」ということ。どんなことがあっても他者をバカにしたり貶んだり蔑視したりしない態度のことです。ひとことで言うなら「個人の存在を否定しない」こと…

「強い当事者主義」問題——セクマイ問題の“ややこしさ”について

セクマイ問題はどうして“ややこしい”のか——。最近だったら社会学者の千田有紀さんが「トランス差別」に関するツイートで炎上した。のちに千田さんは『現代思想』(2020年)で『「女」の境界線を引きなおす—「ターフ」をめぐる対立を超えて』(=千田論文)を書い…

「二種類の人間」

自動車教習所に通っていた頃の話です。 空き時間に教習コースをボーッと見ていました。自動車コースで複数台、バイクのコースには2台走っていた。ザァザァと雨が降っており、バイク教習のジグザク運転はすごく大変そうでした。 ぼくの他にもボーッと見ている…

「日常生活に潜むリバタリアニズム」— 再分配政策(生存権保障)の正当性・社会保障のあり方・分配的正義論(引用メモ)

「日常生活に潜むリバタリアニズム」(=「わたしが働いて得たお金はすべてわたしのものだ」というロジック)を批判する主張(引用メモ)を紹介する。批判対象は主にロック的所有権論=ノージック的リバタリアニズムである。具体的には、租税の正義論・分配的…

「あられもなさ」という性的快楽 —— なぜ、恋愛感情とセックスはつながるのか (2)

《 概要 》 セクシュアリティにかんする問題は本ブログのテーマの一つである。*1 恋愛感情とセックスの関係については以下の記事で詳しく論じたのだが、今回はこの話のつづきである。*2 tunenao.hatenablog.com *1: セクシュアリティは重要なテーマである...…

『いのちの食べかた』森達也/まずは「知ること」が大切!

本書は2005年に刊行された「よりみちパン!セ」という有名なシリーズの一冊。 *1 いのちの食べかた (よりみちパン!セ) 作者: 森達也 出版社/メーカー: 理論社 発売日: 2004/11/19 メディア: 単行本 購入: 20人 クリック: 461回 この商品を含むブログ (185件)…

白石一文『私という運命について』/「ほんとうに不幸なのは出産できない女性」?

2005年に出版された白石一文さんの長編小説。2014年にはWOWOWにてドラマ化もされました。 【内容】 大手メーカーの営業部に総合職として勤務する冬木亜紀は、元恋人・佐藤康の結婚式の招待状に出欠の返事を出しかねていた。康との別離後、彼の母親から手紙を…

内なる差別感情/「障害者になりたくない」という差別心について

「障害」は嫌だ 「目が見えるのと、目が見えないのと、どちらがいいですか?」と言われたら、私は「目が見える方がいい」と答える。目が見えなくなるのは端的に「嫌だ」と思う。その方が不便だからだ。 「目が見えないのは嫌だ」(目が見える方がいい)と答…

「良心なき善良な人」/スノーデンとアイヒマンのはざまで

“リョウシン”ちがい 先生:「その問題は君の“良心”に従って決めるしかない…。私がとやかく言えるような問題じゃないよ。」 生徒:「そんな… 私はもう“両親”なんかに従いたくありません…。ずっと我慢してきたんですから…。」 上司:「君はそれでいいと思うの…

「すべての生が無条件に承認される社会」へ向けて——「生きづらさ」についての雑記(3)

今回は「生きづらさ」と「承認」の問題を考えてみようと思います。 前半では「承認と生きづらさの関係」「承認と自尊の関係」を考えます。 後半では「ただ生きているだけで生が否定されてしまう社会構造」を批判的に問題にし、それにかわる「すべての生が無…

阿部 彩『弱者の居場所がない社会——貧困・格差と社会的包摂』/すべての人が包摂される「ユニバーサル・デザイン社会」

「社会的包摂」政策にかんする入門書 「社会的包摂」とは、(1)社会にビルトインされた「社会的排除」のメカニズムを明らかにし、(2)社会的排除のメカニズムを停止・失効させたうえで、(3)誰もが社会の中に包みこまれながら無理なく生きられる社会を…

本田由紀『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』/「社会は、変えられる」

あらゆる媒体に寄稿された文章をまとめたもの。 その中身は教育社会学者らしいデータ重視の固めの論文から軽いタッチでドラえもん批判を展開するエッセー風のものまで幅広いスタイルで書かれている。 そのほかに阿部真大さん(『搾取される若者たち―バイク便…

本田由紀『若者の労働と生活世界——彼らはどんな現実を生きているか』/若者が直面するツライ現実

本田由紀さん編集の論文集。 編集構成は、前半では若者を取り巻く社会環境の変化についての総論的な分析がなされ、それをうけて後半では「若者と労働」、「若者の生活世界」という二つの各論分析がなされている。 … 若者が抱える苦しみや豊かさが、“われわれ…

湯浅誠『「生きづらさ」の臨界―“溜め”のある社会へ』/「生きづらさ」は社会的・構造的問題

「生きづらさ」に関する鼎談本 現場で活動している湯浅誠さんと河添誠さんが、学者や専門家の方々をゲストに迎えて現代日本の「生きづらさ」について議論している鼎談本。 「生きづらさ」の臨界―“溜め”のある社会へ 作者: 本田由紀,後藤道夫,中西新太郎,湯浅…

大野更紗『困ってるひと』/問題は「感動か笑いか」ではなく「存在の抹消」

著者はある日、原因不明の難病におそわれる。 大学院で「ビルマ難民」の研究をし、現地(ビルマ)で活動中の頃だった…。 ([お]9-1)困ってるひと (ポプラ文庫) 作者: 大野更紗 出版社/メーカー: ポプラ社 発売日: 2012/06/20 メディア: 文庫 購入: 3人 クリッ…

雨宮処凛『生きさせる思想―記憶の解析、生存の肯定』/単なる「労働運動」から「労働/生存運動」(生きさせる思想)へ

「生きさせる思想」とは… 雨宮処凛さんと小森陽一さんとの対談本。 前半は雨宮さんの個人史がテーマになっています(記憶の解析→雨宮さんを苦しめていた「生きづらさ」はいったい何に由来するものだったのか。 ) 自分自身を責めつづける方向(リストカット…

赤木智弘『若者を見殺しにする国』/「人が死ななくても変われる社会」はいつ来るのか

「論座」(2007年1月号)に寄稿した論文「『丸山眞男』をひっぱたきたい~31歳フリーター。希望は、戦争。」収録の文庫版。 若者を見殺しにする国 作者: 赤木智弘 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2013/09/11 メディア: Kindle版 この商品を含むブロ…

『顔ニモマケズ』ーどんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語/「見た目問題」固有の困難は「障害」である

「視線のとまどい」 彼らに見つめられると、心の中に言葉にならない感情が生まれる。 まっすぐに見つめ返すと、傷つけてしまうのではないか。 かといって、急に目をそらすのも失礼だ。 視線をどこに向けたらよいのか分からない戸惑いと葛藤。 病気やケガによ…

『生を肯定する倫理へ―障害学の視点から』/「生を無条件に肯定する」思想

障害学の視点から英米圏の倫理学説(ロールズ「正義論」やシンガー「選好功利主義」など)を批判的に検討し、立岩真也や森岡正博、レヴィナスやデリダの「他者」概念などを導入しながら「生を無条件に肯定する倫理」を構想する書。 生を肯定する倫理へ―障害…

「生きづらさ」低減に向けた「生存学」のアプローチ —「生きづらさ」についての雑記(1)

「生きづらさ」はゼロにはならない 私がブログで本当に考えたいテーマは「生きづらさの低減」についてです。ずっと念頭にあるのが「どうやったら生きづらさを生きづらさとして受け容れられるのか」という難問です。 生きづらさは決してゼロにはならないと思…

『だれか、ふつうを教えてくれ!』/「普通」という権力を疑う

「よりみちパン!セ」シリーズの一冊。 20代前半まで弱視者としてすごし、現在はほぼ全盲にちかい視力の著者が「障害学」の視点から「ふつう」について考察した本です。 だれか、ふつうを教えてくれ! (よりみちパン!セ) 作者: 倉本智明 出版社/メーカー: イ…

小出裕章『放射能汚染の現実を超えて』/大人があえて汚染食品を食べるしかない

チェルノブイリ事故後の1992年に刊行され、ずっと品切れ状態になっていた小出さんの名著が3.11後に緊急復刊。「まえがき」のみが新しく書き下ろされており、その他の本文は加筆などはされていない。 放射能汚染の現実を超えて 作者: 小出裕章 出版社/メーカ…