おんざまゆげ

@スラッカーの思想

「アジアの一等国」だと勘違いしてしまった日本の悲劇がこれから始まる

 右翼だった三島由紀夫は日本の行くすえを案じ、次のような予言を残している。

このまま行ったら日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう

 あらゆる経済指標を鑑みれば、日本はもはや「富裕」でも「経済大国」でもない。それ以外の点では三島の予言は的中してしまっている。

 そもそも日本はそんなにすごい国だったのだろうか? 

 たしかに日本はアジア諸国のなかでいち早く近代化することができた。これは日本人が「勤勉」だったからか、あるいは日本人が他のアジア諸国に比べて「有能」だったからなのか......。

 日本がいち早く近代化できた最大要因のひとつは、たまたま日本領土の地理的条件が好条件だったからにすぎない。日本は島国で、しかも対馬海流日本海流、偏西風などの地理的・自然的条件によって外国からの侵略を免れることができた。これによって「江戸時代の300年」が可能となり、黒船来航まで鎖国しながら独自の文化をつくりあげることができたのである。

 その後、内向きに溜め込んできたエネルギーをアジア・太平洋戦争で能動的に爆発させた日本は、盛大に劇的に敗戦する。夥しい数の加害と犠牲者をだし、米国から原爆を二発投下され日本領土は焦土 灰燼に帰した。戦後は冷戦構造という条件下で日米安保の庇護のもと「朝鮮特需」などによって経済成長することができたが、これも「たまたま」である。(ちなみにデービッド・アトキンソン氏によると、日本が経済成長できたのは日本の技術力が高かったわけでも日本人が真面目で勤勉だったわけでもなく、たんに日本の人口が増加したのが要因だったという。たんなる人口ボーナスだったわけだ。) *1

 恐るべきことに、日本社会は革命的事変が起きたとしてもほとんど何も変わらない国である。戦前からの精神主義エートスは何ひとつ変わらず、「国の兵士」が「企業戦士」に置き換わっただけだった。だから新憲法のもと民主主義国に生まれ変わっても、3.11が起きても、コロナ禍が起きても、日本社会の本質は何ひとつ変わっていない。

 日本はずっと「アジアの一等国」だと自負してきたわけだが、じつはそうでもなかった。日本はたんなるラッキーパンチが二発くらい当たっただけで「自分は最強だ!」と勘違いしてしまった自己評価だけが異様に高い自意識過剰な痛いヤツだったのだ。そのことに気づきはじめたのがオリンピック開催のドタバタ劇からコロナ・パンデミックの無策ぶり、安倍晋三暗殺事件が暴露した政治とカルト宗教との癒着、そして政治資金事件。にもかかわらず、男尊女卑の自民党政治がいまだに跋扈する現状である。経済面ではバブル崩壊以降、実質賃金が下がり続ける唯一の国であり、最近では円安も止まらずに資源高で国民経済が詰みつつある。

 これが「アジアの一等国」か? 三島の予言どおり、日本はこの先もずっと下降しつづけ「からっぽの極東の島国」に落ちぶれていくこと必定である。しかし、これは自虐でも自己卑下でもない。もともと日本は「アジアの一等国」なんかではなかったのだから、たんに自己認識が訂正されるだけである。もはや自己イメージの下降修正(=落ちぶれ感)を「日本すごいぞ」論でごまかすことはできなくなってきた。日本の悲劇はこれからはじまる。ありもしなかった「日本の誇り」とか「過去の栄光」にすがりついて「日本を、取り戻す。」などと言っている右派ポピュリズムが最後にたどりつくのは決まって「戦争」である。よって、最終防衛ラインは「絶対に戦争を起こさせてはならない」という一点につきるだろう。そのためにも、すがりつく虚像としての「アジアの一等国」という幻想を破壊しなければならない。