11月の新刊チェックです。
選定ルールは、
・11月に発売された本(基本的にラノベ系は除外)
・「今すぐ購入したい!」とまではいかない“興味ありがち”な25冊精選
社会問題
1.『部活動って何だろう? ここから変えよう』
「しんぶん赤旗」の連載をまとめたもの。昨今話題の「ブラック部活」問題の本です。大学の先生が専門家の立場で書かれた本ではなく、記者がちゃんと現場に赴いて取材して書いた本ですね。そこがポイントだと思います。
2.『非正規クライシス』
2016年〜17年の朝日新聞連載をまとめたもの。この本も専門家の書いたエビデンス系の本ではなく、記者が取材して書いた現場系(取材系)の本です。しかしそれだけではなく、章と章の間にコラムが設けられており、そこでは大学教授が専門家の立場で非正規労働問題が論じられています。
3.『ブラック職場 過ちはなぜ繰り返されるのか?』
著者は労働問題専門の弁護士。ざっと目次を見た限りでは新しさはまったくありませんでした。新書なので過労死問題やブラック労働の入門書としてはよい本だと思われます。
4.『不安な個人、立ちすくむ国家』
若手の経産官僚がまとめたPDF資料が今年の5月頃にバズって話題になりました。それが書籍(完全版)になって登場したようです。おそらくこの本を1冊読めば日本のほぼすべての問題が要領よくざっくりと分かるのではないでしょうか。完全版では官僚らが養老孟司さん、冨山和彦さん、東浩紀さんと対談しているみたいです。ちなみに漫画版が12月に発売予定のようです。
5.『貧しい人を助ける理由』
世界の貧困問題(南北問題)について書かれた本です。 英国の新聞(ガーディアン紙)に寄稿されたエッセイをまとめたもので、宣伝文によれば「平易な言葉でわかりやすい筋運び」になっているようです。この分野(グローバル正義論)をもっと詳しく知りたい方は下記の本もおすすめです。
貧困の放置は罪なのか――グローバルな正義とコスモポリタニズム
- 作者: 伊藤恭彦
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2010/05/01
- メディア: 単行本
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あなたが救える命: 世界の貧困を終わらせるために今すぐできること
- 作者: ピーターシンガー,Peter Singer,児玉聡,石川涼子
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2014/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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6.『心と体を蝕む「ネット依存」から子どもたちをどう守るのか』
心と体を蝕む「ネット依存」から子どもたちをどう守るのか (MINERVA Excellent Series 2 心理NOW!)
- 作者: 樋口進
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2017/11/30
- メディア: 単行本
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インターネット依存症について書いてある本。特に「子ども」が対象です。アメリカなどではネット依存症専門の治療施設があるみたいですが、日本ではまだまだネット依存は周知されていない(病気だと思われていない)のではないかと思います。ネット上では「ネトゲ廃人」などと呼称されていますが、これから日本でも確実に社会問題化するはずです。
7.『〈水俣病〉事件の61年 未解明の現実を見すえて』
「水俣病」はまだ終わっていない……。なぜかー。その辺のことが気になる方はこの本をきっかけに「水俣病」についてもう一度、考察してみてはどうでしょうか。「水俣病」は福島で起きた3.11原発事故とも共通性があるように思います。
8.『息子が人を殺しました 加害者家族の真実』
著者は殺人事件の加害者家族を支援するNPOを立ち上げた方です。社会から「村八分」にされてしまった人たち(加害者家族)はその後どうなるのか…。 こういう問題は大手マスコミはまったく扱いません。というより、むしろマスコミらは加害者家族を追い込む当事者になっています。
9.『死刑執行された冤罪・飯塚事件 久間三千年さんの無罪を求める』
死刑執行された冤罪・飯塚事件: 久間三千年さんの無罪を求める (GENJINブックレット)
- 作者: 飯塚事件弁護団
- 出版社/メーカー: 現代人文社
- 発売日: 2017/11/20
- メディア: 単行本
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死刑制度に疑問を感じている方は読むべき一冊だと思います。冤罪が濃厚だったのに死刑執行されてしまった「飯塚事件」。信じられないことが起こっていますが、こういう事件はあまり新聞やテレビでは報道されません。
10.『私がアルビノについて調べ考えて書いた本 当事者から始める社会学』
私がアルビノについて調べ考えて書いた本――当事者から始める社会学
- 作者: 矢吹康夫
- 出版社/メーカー: 生活書院
- 発売日: 2017/11/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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著者は社会学の若手研究者で「アルビノ」当事者。分野的には「障害学」や「生存学」に属します。生活書院から刊行されており、かなりの労作のように感じます。「生きづらさ」を抱えた当事者が積年の思いをベースに執念深く掘り下げた1冊!という漂いに満ちています。
11.『明日も、アスペルガーで生きていく。』
今や「コミュ障」同様、「アスペ」などと気軽に発せられるアスペルガー症候群。この本はアスペルガー症候群の当事者を取材して作られた本のようです。
哲学
12.『なぜと問うのはなぜだろう』
1977年に出版された本の復刻版 (40年前!)。この本は編集者から「小学生にも分かるような哲学の本を書いてほしい」と依頼されて書いたそうです。しかし、パラパラ見た限りでは小学生向けではないです! でも、かなり易しく書かれた哲学超入門なのは確かです。薄いし安いしおすすめですね。
13.『七〇歳の絶望』
哲学者・中島義道さんの日記風に書かれた哲学書です。日記風に書かれているので目次は日付しかありません。「◯月◯日 今日は〇〇をした…」と言ったような書き出しから始まるのですが、突如として何の脈絡もなく「過去はない」とか「知覚と想起は違う」といった内容が延々と続いたりします。
14.『新哲学対話 ソクラテスならどう考える?』
「分析哲学」などで有名な飯田隆さんの哲学入門書。ソクラテスの問答法(哲学的対話)の形式で現代哲学のテーマを扱っています。会話形式で書かれているので読みやすいとは思いますが、内容の方はかなり深そうな予感がします。
15.『情動の哲学入門 価値・道徳・生きる意味』
「心の哲学」などで有名な信原幸弘さんの哲学入門書。「情動」(感情)に焦点化している点がユニークだと思います。私たちが感じている情動と倫理や価値の関係はいったいどのようになっているのか。そのへんのことに興味のある方におすすめの1冊です。
16.『人文死生学宣言 私の死の謎』
「死一般」ではなく「私の死」(一人称の死)を人文学の知識で考察する本。入門編と各論編に分かれており、複数の著者によって編まれています。「死」について考えたい方はぜひチェックを…。
17.『世界の共同主観的存在構造』
長らく絶版中だった廣松渉さんの主著が岩波文庫で復活! しかも鼎談「サルトルの地平と共同主観性」が新たに収録。解説を書いているのは弟子の熊野純彦さん。私の勝手な予想ですが、この本も1年〜2年したら絶版状態になるオーラが漂っています。(Kindleでは販売されていない!)。 なので興味のある方は早めに購入した方がよいと思います。(でも超難しいです。)
宗教
18.『キリスト教史』
著者は佐藤優さんの同志社大学神学部時代の恩師にあたる方です。なんとこの本の索引を作ったのが学生時代の佐藤優さんなのだそうです。そのへんのことは解説(佐藤優さん担当)に詳しく書かれています。760頁の大著ですが、キリスト教の歴史に興味のある方は購入されることをおすすめします。
19.『A4または麻原・オウムへの新たな視点』
どんな感じの本なのかいまいちよく分かりませんが、『A3』を読んだ方はぜひとも読むべき1冊ではないかと思われます。
歴史
20.『憲法で読むアメリカ現代史』
『憲法で読むアメリカ史』の続編。アメリカの歴史と憲法を同時に理解できるところがポイントだと思います。
食と生命
21.『食べるってどんなこと? あなたと考えたい命のつながりあい』
食べるってどんなこと?: あなたと考えたい命のつながりあい (中学生の質問箱)
- 作者: 古沢広祐
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2017/11/25
- メディア: 単行本
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平凡社の「中学生の質問箱」シリーズから出ている本です。対象が中学生だけあってとても分かりやすく丁寧に書かれているのが特徴です。「食べる」と「いのち」のつながりを知るには格好の入門書だと思います。この分野では下記の本もおすすめです。
セクシュアリティ
22.『エロマンガ表現史』
かなりマニアックな本です。エロ漫画に興味がある方は面白いかもしれません。
23.『巨乳の誕生 大きなおっぱいはどう呼ばれてきたのか』
著者はAV監督の経験もあるフリーライター。風俗系やアダルト系の本を多数上梓しています。「おっぱい」はいつから性器になったのか… いつから「巨乳」という言葉が誕生したのか… どうして大きな「おっぱい」が好まれるようになったのか…。そのへんのナゾを追究しています。ちなみに下記の「ユニークな図鑑」も同時出版されています。
サイエンス
24.『鏡の背面 人間的認識の自然誌的考察』
単行本(1996年刊行)の文庫化。「刷り込み」などで有名な動物行動学の創始者的存在であるローレンツの本です。この本では人間の認識システムを考察しているようです。
25.『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病(上 ・下)』
人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ダニエル・E・リーバーマン,塩原通緒
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/11/21
- メディア: 文庫
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単行本(2015年刊行)の文庫化。2分冊(上・下巻)。人体(特に疾病)に焦点化した人類進化の歴史について書かれています。宣伝文によると「人類進化の歴史をたどりながら現代人の抱える健康問題の原因を明らかにする」という内容。おそらく、飢餓状態に適応した身体が糖尿病を生んでしまう、みたいな感じの本だと思います。
【 後記】
今月の特徴は、とにかく「西郷隆盛」関係の本が大量に出版されていること。
来年の1月から始まる大河ドラマ『西郷どん』にあわせた出版戦略のようです。おそらく12月以降もこの流れは続くと思います。
あと、すごく地味なところで言えば、南方熊楠の生誕150周年にあわせて出版された熊楠関連の本がいくつかありました。
最後に、どうでもいい情報ですが、アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」の新訳が出版されていたので、何を今さら…と思って調べてみたら12月に映画が上映されるみたいですね。