〈 日本社会を生きづらくするMSH規格 〉
教育社会学者の本田由紀さんが提唱したハイパー・メリトクラシー(=人間力)を最も体現している人物モデルは「松岡修造のような人(MSH)」であると思う。
学校共同体はMSHをつくりだそうとしており、会社共同体はMSHを採用したがっている。もしMSHだったらすぐに内定が決まるはずであり、MSHは自衛隊からコンビニ店員まで幅広い適応力を発揮する。
MSHはコミュニケーション能力抜群であり、上司や先輩にすぐに気に入られ、後輩の面倒見がいい。(あまりにもMSHすぎると後輩に疎まれるだろうが…)
MSHな生徒は部活動が大好きであり、MSHな教師は部活動に情熱を燃やす熱血指導者になる。MSHな会社員は会社共同体においてブラック研修に苦もなく「企業戦士」に変貌し、『プロジェクトX』的な感動物語のなかを生きようとする。
おそらく日本社会においてMSHになれれば最も適応的なハッピー人間になれる。なぜなら、日本社会の共同体システムはMSH仕様にできているからだ。
しかし、世の中には「蛭子能収みたいな人」もいる。蛭子さんみたいな人がどんなに努力してもMSH仕様の共同体システムに適応できるはずがない。(これが本当の「個性」というものである。だからこそ蛭子さんは漫画家になれたのだろう)
蛭子さんまでの齟齬はなくても、ちょっとでもMSHからずれてしまえば途端に「コミュ障」という範囲と見なされてしまう。そのぐらいハイパー・メリトクラシーの人格モデル(MSH規格)は厳格であり、日本社会の生きづらさの一端はそこにあると思われる。
本当はみんなMSH規格を疑問視している(望んでいない?!)のに、日本の共同体システムは依然としてMSH規格を採用している。
ブラック部活動の問題もそのような共同体システムにおけるMSH規格問題の一つではないだろうか。(了)
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