前半部分は主に確率論や刑法過失論を展開しながら、技術的な安全性を評価する際に用いられる「確率論的安全評価」と「責任制度」(無過失責任主義)とのミスマッチについて論じている。
第10章の「復興の倫理」あたりでは、かなりはっきりした主張を展開。阪神・淡路大震災のときは再建スピードを早めるために一定限度の補償(消極主義)であったが、東日本大震災では「復興」(災害に強い町づくり)を目指すべきだから全面補償(積極主義)をとるべきであると提言。
復興の倫理原則としては、黄金律的な相互性の倫理ではなく、「困っている人(あるいは弱い立場の者)は無条件に助ける」という非相互的で功徳的な倫理(義務を超えた行為)が必要であると説く。
著者は応用倫理学に関する本を多数上梓しており、福島原発事故に関しても従来の応用倫理的アプローチを展開するものと思っていた。が、この本の内容のほとんどは確率論的安全評価と無過失責任についての説明である。
言われてみれば得心する説得的な内容ではあるが、ではなぜ「原子力ムラ」にはこのような「常識」が通用しないのだろうか。この問題が解決されないかぎり、いくら理屈を積み重ねても意味がないと思った。