前回紹介した『日本文学にみる純愛百選』より 「明治期から1941年」までの作品を紹介します。(殆どの作品がKindleで無料ダウンロード可能です)
「たけくらべ」 樋口一葉(ひぐち・いちよう) 1896
吉原の伎楼の養女美登利と龍華寺の住職の息子信如。二人の恋を、遊郭の情景のなかで描く。発表直後、森鴎外から激賞され、一葉の文名を一躍高めた作品。
「高野聖」 泉鏡花(いずみ・きょうか) 1900
作者27歳のとき、「新小説」誌上に発表。飛騨から信濃への峠越えをする旅僧が山中で体験した怪しくも幻想的な話を、後年、列車で連れとなった「私」に宿屋で物語るという趣向。
「野菊の墓」 伊藤左千夫(いとう・さちお) 1906
政夫と民子は恋におちる。だが、従姉弟の間柄にあるふたりは、双方の親によって引き裂かれてしまう。病におかされた民子は、政夫の手紙を握りしめながら、息をひきとる。
「少女病」 田山花袋 (たやま・かたい) 1907
通勤電車のなかで美少女を観察することを趣味にしている、雑誌社に勤める中年男・杉田古城は、妻子がありながらも、「叶わぬ恋」に心惑わせ、死すら考えるようになって…。
「秘密」 谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう) 1911
明治時代末の東京。ある晩、私は女装をして浅草を徘徊し、映画館で別れた女と再会する。その美しさに敗北した私は、彼女とLove adventureを繰り広げるが、二人の間にある秘密が消滅し快楽が失われた時、物語は終わる。
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「それから」 夏目漱石(なつめ・そうせき) 1915
『三四郎』から『門』へと続く三部作の第二作。高等遊民代助は過去に愛した女三千代を再び愛するようになる。単純な純愛でないところに逆に現実味がある。
「じいさんばあさん」 森鷗外(もり・おうがい) 1915
些細なことから刃傷沙汰を起こし、美濃部伊織は遠方に配されてしまう。三七年後に許され江戸に帰ると、妻るんは喜んで彼の元に駆けつけ、仲睦まじく暮らし始める。
「暗夜行路」 志賀直哉(しが・なおや) 1922
東京・尾道・京都と、ノイローゼ気味な小説家の時任謙作が「呪われた運命」を歩んでいく。近代日本文学の到達点としての誉れ高い、私小説的な側面もある著者唯一の長篇。
「伊豆の踊子」 川端康成(かわばた・やすなり) 1926
旧制第一高等学校に通う20歳の私は伊豆の旅に出て、旅芸人一行に出会う。道中を同行しながら、私と踊子とのあいだに淡い恋心が芽生える。しかし、私と踊子はお互い好意を持ちながらも、下田の港で別れることになる。
「セメント樽の中の手紙」 葉山嘉樹(はやま・よしき) 1926
松戸与三は、セメントをミキサーにあける仕事を終えた後に、セメント樽の中に小箱を見つける。その中からは、女工の手紙が出てきた。その手紙には、破砕器にはさまり、粉々になって死んだ恋人のことが綴られていたのだった。
「春は馬車に乗って」 横光利一(よこみつ・りいち) 1927
結核を患う妻と彼女を看病する夫とのいさかいが、悲しくも滑稽に繰り広げられる。冬から春へと季節が推移し、二人が避けがない死を受け入れたところで小説は結末を迎える。
「押絵の奇蹟」 夢野久作(ゆめの・きゅうさく) 1929
「新青年」昭和四年一月号に発表され、反響を呼んだ。不義の子か? 一途に思うだけで瓜二つの子どもができるのか? 押絵に籠められた熱く、清く、ひたすらな思い。江戸川乱歩絶賛の作品。
「地下室アントンの一夜」 尾崎翠(おざき・みどり) 1932
1932年8月『新科学的文芸』に掲載。前年9月『家庭』に発表した『歩行』は、失恋を癒す詩を詩人に教わる女の子の一人称だが、その女の子に恋してしまった詩人は……
「あにいもうと」 室生犀星(むろう・さいせい) 1934
学生の子を身籠った人夫頭の娘もんは、子を死産した後、身を持ち崩す。腕はいいが怠け者で、金が出来ると遊蕩に費やしてしまう石工の兄伊之は、そんな妹に我慢がならない。
「金魚撩乱」 岡本かの子(おかもと・かのこ) 1937
47歳から矢継ぎ早に小説を書き始め、51歳で病死したかの子49歳の作品。はかなくも超然とした天女のような女への愛の結晶として、金魚改良に究極の美を求める男が、嵐の後に見たものは……
「濹東綺譚」 永井荷風(ながい・かふう) 1937
自らなじんだ花柳界に材を得た作品。昭和12年、朝日新聞に連載。日本的な場末の風景を取り入れながら、作家を主人公にし、作中作を導入するなど、形式として斬新な作品。
「仮装人物」 徳田秋声(とくだ・しゅうせい) 1938
1935年から病気をはさんで38年まで断続的に雑誌に連載され、同年刊行。プロレタリア文学、新興芸術派の文学に圧された晩年の秋声の、新境地を開く長編小説。
「天の夕顔」 中河与一(なかがわ・よいち) 1938
主人公「わたしく」と人妻である「あの人」との二十余年にもわたる純真な愛と悲しみを描く。六ヶ国語に翻訳され、特にフランスではカミュなどの賞賛を受けた。
「風立ちぬ」 堀辰雄(ほり・たつお) 1938
八ヶ岳山麓のサナトリウムにて、私は、フィアンセの節子と「愛の生活」をはじめるが……。愛する人を失った者へのレクイエムとして、日記のようにつづられてゆく「散文詩」。
「女坂」 圓地文子(えんち・ふみこ) 1939
大書記官白川行友の妻倫は、夫のための妾を探しに浅草に……。二人の妾を抱え、さらには息子の嫁とも関係するような、万事やりたい放題の夫に耐え、倫は家を生涯支え続ける。
「死者の書」 折口信夫(おりくち・しのぶ) 1939
二上山に惹かれて出奔し、當麻寺に住むことになった才媛藤原郎女の前に、古墳の闇の中に復活し、かつて心を寄せた女を求める大津皇子が、山越えの阿弥陀となって出現する。
「墓地展望亭」 久生十蘭(ひさお・じゅうらん) 1939
フランスに住む人生に絶望した日本人青年と、東欧の国の王女の許されない恋。シャープな語り口で20世紀のヨーロッパに御伽噺を蘇らせる宝石のような短篇。
「夫婦善哉」 織田作之助(おだ・さくのすけ) 1940
芸者あがりの蝶子は、妻子もちの若旦那だった柳吉と駈落ちし、剃刀屋、関東煮屋、果物屋、カフェを共同経営してゆくが……。ダメ男と「夫婦」になる、悲喜こもごもの物語。
「智恵子抄」 高村光太郎(たかむら・こうたろう) 1941
妻智恵子との愛の日々をたどる詩集。出会い、結婚、夫婦そろっての芸術精進の日々から、精神に分裂を来たした妻への想いの絶唱まで。夫婦愛の普遍的な形象化に成功したか。
以上。
Part2につづく