おんざまゆげ

@スラッカーの思想

自分を大切にしてくれない場所からはさっさと逃げよう

『あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない』。そしてそれが『人が生きる上で、一番くらいに大切なことだと思う』

「あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない」というメッセージ。の巻(雨宮処凛)

 

 日本の「勤労」という概念をそれなりに調べた結果、それは江戸時代以前からすでに端を発していることがわかった。かなり根が深い日本的精神である。勤労主義は日本の明治時代の精神(忠孝一致)につながっており、アジア太平洋戦争のイデオロギーともなり、戦後は高度経済成長のエートスにもなった。

 歴史・宗教社会学的には「資本主義の精神」が生みだされるには「勤労」という不思議な心の習慣が必要だったと言われている。そのような勤労というエートスを生みだしたのはマックス・ウェーバーによれば「プロテスタンティズムの倫理」である。ウェーバーが『プロ倫』で論証したのは、資本主義の歴史的起源ではなく資本主義という摩訶不思議なシステムが立ち上がるための仮説的前提条件だ。近代以前にはまったくなかった「勤労」という営み。これが「プロテスタンティズムの倫理」によって駆動されなければ資本主義はシステムとして初動しなかった。

 この点をウェーバー以前に見抜いていたのが『怠惰の権利』で有名なラファルグである。現実主義者でもあったラファルグは、一部のアナキストが提唱する労働廃止論のような実現不能な要求はせず、ただシンプルに労働時間の短縮(1日4時間)を主張した。そこでのポイントは、働くか働かないかということよりも「人間はすべからく労働すべし」という規範(勤労主義)を批判するところにあった。

 

 コロナ以降「もううんざりだ!」と言っているひとたちが急増している。

 ひとつは不登校が過去最大になったこと。

 

 

 もうひとつは、米国で始まった〈Great Resignation(グレート・レジグネーション)」=「大量離職」〉現象である。

 

 

あらゆる階層において、従来型の働き方や職場環境に対してノーを突きつける労働者が増えているということであり、これまでの社会では見られなかった現象である。従来型の価値観に対する拒絶にも見える今回の動きについて、一部の専門家は、コロナ危機をきっかけに労働に対する価値観が変化した結果と指摘している

いよいよ世界中で「働かない人」が激増中…それが経済に与える「深刻すぎるダメージ」

 

 わたしはどちらも「よい傾向」だと思っている。なぜなら〈自分を大切にしてくれない場所からはさっさと逃げよう〉と思っているからだ。

 べつにいきなり今日から不登校ニートになったほうがいいとすすめているわけではない。今までのようなガチガチの勤労主義やガチガチの学校主義からちょっとでも距離をおくような生き方をしてみてもよいのではないか。それがコロナという世界的危機からわたしたちが得た示唆的教訓であり福音でさえある。


 働き方に関して言うなら、日本の生産年齢人口(15歳〜64歳)は1995年以来ずっと減少しており、このさき移民労働者を大量に受け入れないかぎり増える見こみはない。パートやアルバイトのような非正規労働にかぎっていうなら職種を選ばなければ働き口は確保しやすい時代になっている。むろん、わたしは「働くべきだ」とは絶対に思わないが、もし働くのだとしたら今までのような「バカ真面目な」働き方はやめたほうがいいと思っている。働くとしてもすごく適当に不真面目に働こう! もし、職場に嫌なひとがいたらすぐに辞めてフラフラしながらべつの仕事を探し、どうでもいい適当な仕事について適当に働こう。もし仕事で文句を言われたらまたすぐに辞めてべつのどうてもいい仕事について適当にダラダラ働くのだ。それが日本の労働社会にとっては当然の報いとなる。

 米国ではコロナ後、インフレと労働者の人手不足によって最低賃金が一気に上昇している。しかし、日本ではインフレで人手不足であるにもかかわらず、最賃はまったくのびていない。そんな傾向が続く日本でまじめに働くバカがどこにいるだろう? というか、そんな日本で真面目に働いてしまったらそれは罪ですらある。

 日本では気づきにくいかもしれないが、世界では「もはやコロナ以前の世界には戻れない」というモードが支配的である。日本では「ファクターX」のおかげかコロナ感染者が世界と比べて少なかった。だからすぐにbusiness as usual(平常運転)になってしまった。

 しかし、コロナ以前から分かっていたひとたちがいる。そういう生き方はおかしい「もううんざりだ!」と思っていた人たちがいたのだ。コロナによってその価値観は拡大した。日本以外の世界では......。

 そういう意味で、わたしたちは「自分を大切にしてくれない場所」から逃げやすくなっている。すぐに逃げることはむずかしいだろう。まずは今までやりたくてもできなかった不真面目なこと(規範破り)を思いきってやってみよう。それで叱責されたり注意されたりしたときはこう思えばいい。「なぜこのひとはこんなにムキになっているのだろう」と。もはや真面目に生きたところでまったく報われないこのダメな日本社会で、さも自分はまともな人間だと言わんばかりに自信満々な表情で言ってくるそのひとの「悲しみ」を感じるほどの脱力したしなやかな心持ちで、根拠なく大丈夫と思いながら「自分を大切にしてくれない場所からはさっさと逃げよう」と思ってみる。

 もはや世界は、日本社会は、そういう時代になっている。はやくマインドセットを変えたほうがいい。