おんざまゆげ

@スラッカーの思想

なぜ賃労働は“奴隷労働”になるのか

生物としての動物は、一日中なにもせずにじっとしていても呼吸をしているかぎり必ずエネルギーを消費する。これは生命活動を維持するための必要最小限のエネルギー(基礎代謝)であり、ヒトの場合一日約1400kcal 必要になる。もし、基礎代謝以上のエネルギー…

(ア)セクシュアリティ再考──「ちんぽ脳」からの脱却──

「自認」までの道のり 異性愛規範 恋愛的指向(romantic orientation) 性的指向 (sexual orientation) *4 性と愛 「性的魅力」について 分割される「魅力=惹かれ」(attraction) 「魅力」研究の歴史 「性的魅力」は知っている、だが惹かれない! マスターベー…

「長生き」という幻想と「自由死」──死にかたを選ぶ自由

「時間の長さ」という幻想 わたしたちの人生観は物理学的な時間・量的な時間・時計的/カレンダー的な時間に支配されている。「いま現在」を起点として開かれる時間感覚は、数直線上のある点を「現在」、その左側は過去、右側は未来になる。このような「時間…

「情熱的な恋愛」と「普通の恋愛」──恋愛文化が普及した理由

三宅香帆 著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書,2024年)を読んでいたとき、ふと思ったことがある。もし、読書が労働のノイズになるのなら、恋愛なんてなおさらノイズになるのではないか、そもそも労働と両立可能な恋愛などあるのだろうか…

「生き方」としての読書──読書と労働の両立可能性を考える

三宅香帆 著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書,2024年)を読んだので、以下でその要約と異論を述べたいと思う。 簡単に要約すると、働いていると本が読めなくなるのは、日本の雇用システムがいまだに長時間労働(全身全霊で働く社会)だから…

「自己犠牲的献身性」に人生の意味を見いだす生き方を左派的に考える

政治理念(思想)と年齢意識 わたしの政治理念は「左翼/リベラル」(=左派)の立場である。 生活保障としてのベーシックインカムを実施し、働きたいひとは働き、たとえ働かなくても最低限の生活がすべてのひとに保証されれば社会はもっと良い方向に変わると思っ…

不可避のルッキズム──なぜ「恋愛現象」は衰退したのか

"> ヒトが直立二足歩行をするようになった結果、感覚器官のシフト(嗅覚中心から視覚中心へ)が起こった──これは精神分析を創始したフロイトが注目した仮説である。これは進化論にもとづくもので、四足歩行のときは顔が地面に近いから視覚より嗅覚のほうが有利…

「自分の事ばかりで情けなくなるよ」──のうのうと暮らしている罪

"> 井上陽水が作詞・作曲した『傘がない』(1972年)という曲がある。詞曲を意訳するなら「どこかで誰かが人知れず死んでしまうことよりも、いま雨が降っていて傘がないことのほうが問題だ」という暗い歌だ。 "> 《「傘がない」のリリースは、学生運動の勢いが…

「所属集団の準拠集団化」という洗脳メカニズム──なぜ日本社会は生きづらいのか(2)

なぜ日本社会は生きづらいのか──。シンプルに考えてみるシリーズ第二回目。前回は「日本的生活保障システム」の問題を論じた。 今回は日本社会の「共同体的メンタリティ」(所属集団の“空気”に支配される心性=同調圧力)についてとりあげる。ここで要因となっ…

脱人間的な方向で〈なまもの〉的感性を変革すること

韓国映画『オアシス (오아시스/OASIS)』(2004年)。いまではデジタル・リマスター版をAmazon primeで観ることができる。 内容は「不器用にしか生きられない男性」と「脳性麻痺をもつ女性」との性愛を描くラブストーリーである。この種のドラマがハッピーエン…

日本的生活保障システムの弊害──なぜ日本社会は生きづらいのか(1)

なぜ日本社会は生きづらいのか──。 以下では日本の絶望的なデータを示しながらごくシンプルに考えてみたい。結論からいうと、日本社会の生きづらさは家族主義的男性稼ぎ主モデル(=日本的生活保障システム)のシステム障害から生じているとおもわれる。この日…

書き換えられる〈物語〉〜希望と絶望の同根性〜

以下の楽曲は『交響曲第1番《HIROSHIMA》』(2003年)。当初、この交響曲は佐村河内守 氏が作曲したとされていたが、のちに「ゴーストライター問題」が発覚。佐村河内氏は「指示書」(原案)を作成しただけで作曲じたいは新垣隆 氏が行っていたことがわかった。…

更生保護と人間観——規範的人間像が生みだす弊害——

保護司 制度を題材にした映画 最近、映画『前科者』(2022年公開)を観たせいか「更生保護」という分野について考えている。とくに更生保護の一角を担う「保護司制度」。この制度は日本独特であり、国家公務員であるにもかかわらず無償労働になっている。いま…

「アジアの一等国」だと勘違いしてしまった日本の悲劇がこれから始まる

右翼だった三島由紀夫は日本の行くすえを案じ、次のような予言を残している。 「このまま行ったら日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう」 あ…

「なにもしてないのに偉そうに言うな!」というアクティヴィズム・マウントについて

「そのように批判してばかりいるあなたは実際になにをやったんですか? 現場をしらないあなたになにがわかるんですか?」── 書き言葉や話し言葉による言説によって批判ばかりしているひとにはその論法はおなじみとなっている。「おまえは批判ばかりしてなに…

排除と搾取のメカニズム──資本主義から自由になるための条件

資本主義は概ね(1)「賃労働で所得を獲得できないと生活できない」という世界をつくったうえで、 (2)「賃労働者から搾取する」ことによって成り立っている。マルクスは搾取される賃労働者の階級を革命主体と捉えたが、逆に「働かない者たち」(ルンペン・プロ…

事故調と免責制度——再発防止には刑事責任を免責する法理が必要

1985年8月12日、日本航空123便が群馬県上野村の山中「御巣鷹山」に墜落した。死者520名(生存者4名)。航空機事故では最悪レベルの惨事だった。(日本航空123便墜落事故) この事故にかんしては様々な憶測(陰謀論を含めたもの)がある。事故原因がいまだにはっき…

「小人閑居して不善をなす」──人間の自由と悪への傾き

「とうとう我らの時代がきた!」 そう歓喜したのはわたしが中学二年の夏休み、三年生が部活の大会に破れたときのことだった。しかし、顧問の先生は言った。「お前ら三年に自由な夏休みを与えてしまうと何をしでかすかわからない。だから秋の大会にエントリー…

Dラブ/Bラブと愛情資本、そして「親ガチャ」——「無理ゲー」になったマズローの欲求階層モデル

心理学者のマズローが提出した「欲求階層モデル」。高校の「現代社会」のような科目にも登場するような有名な図であるが、あらためてこのモデルを考えてみると恐ろしいほどの「無理ゲー」になっていることに気づいた。 詳細はマズローの主著である『人間性の…

「青春」はなぜ実在しないのか——「物語り」としての人生

ドミナントな「青春」という呪縛語を破壊しよう! 「青春」という言葉はありふれている。すごく嘘くさい言葉だ。わたしが中学生や高校生のとき、まさかその〈いま・現在〉を「青春時代」だなんて思ったことは一度もなかった。あまりにもつらすぎて早く過ぎ去…

「雑音」と「鼻」——クレーマーとルッキズムを増大させる感受性の劣化

江戸時代、日本では「虫売り」という商売があった。スズムシやキリギリスなどのような独特の鳴き声を発する昆虫を観賞用として売るのである。虫の鳴き声を鑑賞する文化は海外ではめずらしく、そういう文化のない国では虫の鳴き声はたんなる「雑音」としてし…

「逆錘」——「毒親問題」解決法

アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が7月2日で完結した。もしかしたら第3シーズンもあるのかもしれないが、一応、物語的には全24話で完結している。ふだん、ガンダム・シリーズはほとんど観ないのだが、この『水星の魔女』はガンダム・シリーズ初の主人…

「第三者の傷つき体験」—加害的規範についてー

個人的な嬉しい出来事をSNSなどで不特定多数に向けて発信することがある。たとえば「大学に合格したよ」とか「結婚しました」とか「子どもが産まれました」等々...。こういう喜ばしい出来事の発表には「おめでとう」という祝福メッセージがあつまる。 しかし…

「自己啓発的サバイバリズム」の時代—「無理ゲー社会」と自己啓発の親和性—

最近、『ハッピークラシー――「幸せ」願望に支配される日常』(みすず書房,2022年)を読んでいて、はたと気づかされたことがある。それはその本の原注 p16(第二章 脚注60)に書かれていたのだが、概ね次のような指摘である。社会が生きづらくなればなるほど自己…

怠惰と堕落のちがい——「怠惰の倫理」は堕落主義を拒絶する

このへんではっきりさせておきたいから書く。わたしは堕落主義者に与したくない。怠惰は推奨するが堕落は拒絶する。 堕落とは自分の利益や幸福のことしか考えない非政治的でシニカルな心の習慣である。一方、怠惰(スラッカー)とは堕落傾向を阻止するために勤…

自分を大切にしてくれない場所からはさっさと逃げよう

『あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない』。そしてそれが『人が生きる上で、一番くらいに大切なことだと思う』 「あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない」というメッセージ。の巻(雨宮処凛) 日本の「勤労」という概念をそれなりに調…

公助が必要な理由——『イラクの子 ふたりのアリの悲劇』からわかった支援格差の現実と「日本社会の劣等性」——

イラク戦争の最中、米軍の爆撃により運命を変えられたふたりの子ども。偶然にもアリという同じ名前を持ち、同じ病院で治療を受けたふたりの子どもの惨劇を通して、イラク戦争が罪のない一般のイラク人にもたらした辛い現実を描いたドキュメンタリー。 バグダ…

社会問題を「教養」と捉えるひとたち

ブログを読んだりするのが昔から好きで、はてなブログでは書評系ブロガーなどを毎日チェックしている。 そのなかで「公務員」という肩書きのブログがわたしの読書傾向とほぼ合致するので、ある時期までそのブログを頻繁に注意深く読んでいた。 だが、ある日…

「メメント・モリ」を生きるには?

希死念慮が習慣化してくると「人生は生きるに値するか」というセンサーが脳のなかに埋め込まれ、それがことあるごとに日常的に作動するようになる。ほとんどの場合、常に「値しない」という反応が出力され続け、生命体であるかぎりすべての人間はあと数十年…

エイジズム—若さを求めて老いを忌避する心性—

社会学者の上野千鶴子さんは下記のボーヴォワール『老い』を解説している本のなかで「老いる姿を隠すべきではない」と言っている。すごく重要な指摘だとおもう。 ボーヴォワール『老い』 2021年7月 (NHK100分de名著) 作者:上野 千鶴子 NHK出版 Amazon 社会の…